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GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループの論点について

内閣官房GX実行推進室は、2024年9月から12月にかけてGX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ(座長:東京大学 副学長・大学院経済学研究科 教授 大橋 弘 氏)を開催しました。第5回(12月19日)までで多くの論点が整理されています。
1. 背景と検討の経緯
2050年カーボンニュートラル実現と経済成長を両立するため、GX(グリーントランスフォーメーション)推進戦略の一環として、排出量取引制度を2026年度から本格稼働させることが決定された。本制度は、公平性と実効性を確保しながら、GX投資を促進することを目的としている。
専門家や産業界の意見を反映するためにワーキンググループ(WG)が設置され、排出量取引制度の詳細な設計が議論されている。
2. 排出量取引制度の具体化の方向性
本制度の基本方針として、以下の要素が検討されている。
① 制度の全体像
- CO2の直接排出量が10万トン以上の法人(単体)が制度対象者となる。
- GX推進機構が市場を開設し、排出枠取引を管理する。
- 排出枠価格の上下限を設定し、価格の安定化を図る。
② 制度対象者
- 企業単位での管理を基本とし、親会社が密接な関係にある子会社を含めて手続き可能な認定制度を設ける。
- EUや韓国などの他国の制度と整合性を取りながら、国内の温室効果ガス排出量の約60%をカバーする規模の事業者を対象とする。
③ 排出枠の算定・検証・割当・償却
- 企業は毎年度、排出量を算定し、第三者機関の検証を受けた上で国に報告。
- その排出実績と同量の排出枠の償却を義務付ける。
- 不履行時には未償却相当負担金を支払う義務が生じる。
④ 価格安定化措置
- 排出枠価格の高騰時には上限価格を設定し、価格上昇の影響を緩和。
- 価格が一定期間以上下限を下回る場合、リバースオークションを実施し、排出枠の流通量を調整する。
⑤ 移行計画の策定
- 対象企業は2050年カーボンニュートラルを見据えた削減目標を設定し、中長期的な排出量の見通しを国が集計・公表する。
⑥ 取引所の運営
- 排出枠取引の透明性を確保しつつ、投機的取引を抑制するルールを導入。
- GX推進機構が市場運営を担い、制度対象者に加え、カーボンクレジット取引経験者も市場に参加可能とする。
3. その他の検討事項
① 目標設定のあり方
- 多くの企業が野心的な目標を掲げる一方で、目標水準の公平性が課題。
- 産業別の特性や削減努力の履歴を考慮した指針を策定。
② 目標達成に向けた規律強化
- CBAM(炭素国境調整メカニズム)への対応も踏まえ、企業の目標達成を義務化するかを検討。
③ 投資の予見性確保
- 企業のGX投資を促進するため、上下限価格を設定し、価格の安定を図る。
- 排出枠の追加供給量を制限する措置を検討。
④ クレジットの活用
- J-クレジットやJCM(Joint Crediting Mechanism)を活用可能とし、排出削減のインセンティブを提供。
- ただし、外部クレジットの無制限利用は認めない方向で検討。
⑤ 研究開発支援
- 企業のGX関連研究開発費に応じて、排出枠の追加割当を行うことで、中長期的な技術革新を促進。
⑥ 事業所の新設・廃止への対応
- 事業所の新設や活動量の変動があった場合、翌年度の排出枠割当を調整。
⑦ リーケージリスクへの対応
- 国際競争力を維持するため、カーボンリーケージ(企業が排出規制の緩い国へ移転するリスク)対策を導入。
- 排出枠調達コストが一定水準を超える事業者には追加割当を行う。
⑧ 制度執行のスケジュール
- 2025年度中に施行されるルールに基づき、企業は割当申請を実施。
- 2026年度は基準排出量を算定し、2027年度に初回の排出枠割当を行う。
- 取引市場の開設は2027年度秋を予定。
4. まとめ
本制度が、GX推進を目的とし、カーボンニュートラルの実現に向けた公平かつ効果的な排出量取引の仕組みを構築することを目指しているものです。環境省認定制度脱炭素アドバイザー・アドバンスト資格であるJCNAカーボンニュートラルアドバイザー・アドバンスト資格を運営するJCNAでは、この取り組みがGXを一層推進させると考えています。また、排出量取引にあたってJクレジットなどが使用可能になっているため、中小企業でもJクレジットの生成がさらに進むと見られます。価格安定化措置や研究開発支援、リーケージリスクの緩和など、実効性を確保するための詳細な設計が進められており、最終的な制度の確定にはもう少しかかりますが、GXの先行きを考える上で非常に重要な転換点となると考えられます。
JCNAでは、環境省認定制度脱炭素アドバイザー・アドバンスト資格であるJCNAカーボンニュートラルアドバイザー・アドバンスト資格の認定を開始しました。 本資格を取得することで、中小企業の脱炭素経営に必要な知識を得ることができます。 資格の詳細へ